【歯医者の裏側⑨】蔓延する患者に寄り添う風の診療
「患者に寄り添う」という言葉は、医療従事者の間でよく使われます。
クリニックなどのホームページなどでもよく目にしますよね。
医療従事者が患者に寄り添うということは、間違いなく大切なことです。
しかし多くの医療従事者は、「患者に寄り添う」ということを本質的には理解していないように感じます。
これは医療従事者だけでなく、患者も同様です。
今行われている「患者に寄り添う診療」の多くは、実は「患者に寄り添う風の診療」でしかありません。
要は寄り添っているふりです
では本当の意味での患者に寄り添う診療とは、どんなものなのかを考えていきましょう。
今回の話は、歯医者に限らず医者も含めた医療従事者全体の話になります。
患者に寄り添うとは
そもそも「患者に寄り添う」とは、どんなことなのでしょう?
よく聞く模範解答的な答えとしては
「患者の話をゆっくり良く聞くこと」
というようなものがあります。
いわゆる「傾聴」ですね
テストだったら正解が貰えそうですよね。
患者ウケもよさそうです。
でもそれだけが患者に寄り添うということでしょうか。
医療を行う最終的な目的は、話を聞くことではないですよね。
話を聞くことは、ただの一つの手段でしかありません。
- ・専門知識を基に、最善を模索する
- ・多角的視点から治療計画を考える
- ・生活習慣の改善などを指導する
- ・健康は自分で守るものをいうことを理解させる
- ・患者の家族の負担なども考慮する
- ・患者が望まなくても、粘り強く正しい知識を啓蒙する
このようなことに対して真摯に取り組むとしたら、それは「患者に寄り添う」と言えると思いませんか?
「患者に寄り添う」ということは様々な要素があります。
具体的な行動として定義できるものではありませんが、もし言葉にするとしたら
「患者と共に、患者の状態を改善させるために最善を尽くす」
といったところでしょうか。
そしてその最善というものが、患者の希望とは異なる場合もあり得るわけです。
寄り添う風の診療はただの迎合
じゃあ寄り添う風の診療って
どんなもの??
寄り添う風の診療は、患者の話を聞いて患者の希望を叶えるための診療です。
いいことじゃないか!!
こんな声が聞こえてきそうですが、そもそもそれが間違っています。
結果として患者の希望を叶えることになるのは良いのですが、患者の希望を叶えることが目的なのは完全に間違いです。
当たり前ですが、医療に関して患者は素人です。
病気のことや治療で可能な範囲などは理解できていません。
ですから
- ・不可能な要望をしてくる
- ・可能だが、医者から見たら将来的にデメリットの大きい要望をしてくる
- ・自分の生活習慣が原因にも拘らず、被害者のように感じている
このようなことは多々あります。
このようなことに対して、患者の話に共感を示して希望を叶えることは、患者のために正しいでしょうか?
それは寄り添うと言えるのでしょうか。
ちょっと例を見てみましょう。
糖尿病ですね。
え!?先生、大丈夫ですよね?
治してください!!
(生活習慣の改善が必要だけど・・・)
大丈夫ですよ、安心してください!!
お薬出しておきますね!!
こんな感じです。
もう一丁いきましょう!!
この歯は歯周病がとても進行してしまっています。
抜くのは嫌です!!
抜かないで治してください!!
(抜かないと周りの歯もやられるけど・・・)
わかりました!!安心してください!!
抜かないで治療していきましょう!!
超ざっくりですが、イメージとしてはこんな感じです。
患者に寄り添う風の診療は、患者に共感を示して否定せず、患者の要望を叶えることが目的なわけです。
患者の将来のことを考えれば、患者に嫌がられてもそもそもの原因である生活習慣の改善を指導する必要があります。
抜くべき歯は患者の希望に反したとしても、抜く必要があることを伝える必要があります。
それによって患者が不愉快な思いをしたり、不信感を持ったとしても必要なものは必要なのです。
結局のところ寄り添う風の診療は、患者にとっての最善を目指すのではなく、患者の人気を得ることが目的なのです。
つまりは迎合ですね。
患者に寄り添う | 患者に寄り添う風 | |
---|---|---|
手段 | 最善を目指す | 迎合 |
目的 | 患者の状態の改善 | 患者の人気の獲得 |
手段 | |
---|---|
患者に寄り添う | 最善を目指す |
患者に寄り添う風 | 迎合 |
目的 | |
---|---|
患者に寄り添う | 患者の状態の改善 |
患者に寄り添う風 | 患者の人気の獲得 |
医療従事者としての役割を放棄して、患者の人気を得るために一生懸命に迎合をしているわけです。
それなのに「患者に寄り添う」とか言っちゃっているのです。 笑っちゃいますよね。
介護現場も寄り添う風が蔓延
医療ではなく介護分野でも、この「寄り添う風」が蔓延しています。 介護においての本来の目的は何だと思いますか?
手助けに決まってるだろ!!
はい、全く違います。
介護の目的は、「自立した生活を支援すること」です。
つまりはできるだけ自立した生活をしてもらうことを目指しながら、必要最低限のサポートをすることが介護の役割なのです。
何でもやってあげたら、本人がやれることがどんどん減っていきます。
あっという間に何もできなくなって、寝たきりです。
出来る限り自分でやってもらうことが重要なのです。
しかし現在の介護は、本人に何もやらせないのがスタンダードになっています。
何でもやってあげているというわけです。
ただし、このようになっている理由は医療とは少し異なります。
医療のように人気を得るためではなく、トラブルを避けるためというのが主なのです。
介護現場で何かあったら、利用者の家族などからクレームが殺到します。
最悪の場合は訴訟です。
できるだけ本人にやってもらおうとして、転んでしまって骨折でもしようものなら大変です。
そのような事態にならないように、何もやらせなくなってしまっているのです。
介護を押し付けているくせに、文句ばかり言っている一部のモンスターファミリーの責任は非常に重いのです。
利用者に寄り添う | 利用者に寄り添う風 | |
---|---|---|
手段 | 本人にやらせる | 本人にやらせない |
目的 | 本人の自立した生活 | クレーム回避 |
手段 | |
---|---|
利用者に寄り添う | 本人にやらせる |
利用者に寄り添う風 | 本人にやらせない |
目的 | |
---|---|
利用者に寄り添う | 本人の自立した生活 |
利用者に寄り添う風 | クレーム回避 |
医療・介護の進むべき方向
当たり前なのですが、聞こえのいい言葉を使ったところで、中身が空っぽであれば何の意味もありませんよね。
もちろん本来のあるべき形を真摯に目指している医療従事者や介護従事者もたくさんいます。しかしそのような人たちが、必ずしも患者や利用者から評価を受けているわけではないというのも現実です。
患者や利用者やその家族などのリテラシーの低さも、大きな問題の一つです。
真摯に患者や利用者に寄り添っている医療従事者や介護従事者は、今後どのようにしたらいいのでしょうか。
結論を言えば、患者や利用者を選ぶべきです。
いくら真摯に対応したとしても、自分の要望のみを押し付けてくる患者や利用者やその家族はたくさんいます。
そのような人たちは、断るべきです。
明確にNOを突きつけましょう。
相手にしなくていいのです。
その結果、口コミなどで批判されたりすることもあるかもしれません。 そのようなものは、見ない・気にしないに限ります。
圧倒的に無視!!
自分本位でリテラシーの低い患者や利用者やその家族などは、寄り添う風が得意な医療従事者や介護従事者お任せしたらいいのです。
無駄なストレスを感じる必要も、貴重な時間を奪われる必要もないのです。
リテラシーの高い人たちは、ちゃんと見てくれています。
最初は限られた範囲ですが、良い循環を作っていくことができるはずです。
そうして少しずつ、医療や介護の本質に近づけていきましょう。
時間はかかるかもしれませんが、一歩ずつです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。