病院は便利で快適であるべきか?

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病院は便利で快適であるべきか?

奇跡の制度

好きな時に好きな医療機関に受診することができることは日本人にとっては当たり前ですが、これは世界的に見ると非常に珍しいことで先進諸国の中でも日本が唯一と言っていい存在です。

奇跡の制度

日本の国民皆保険制度は「奇跡の制度」と言われ、世界の中でこれほど誰もがいつでも医療を受けられる国はありません。 福祉大国などといわれるような北欧の国など医療制度が整っている国でも、かかりつけ医制度などで各々の受診する医療機関は決められており基本的に予約以外は診てもらえないことも多いため、日本のように好きな時に好きな医療機関に受診することは基本的にはできません。各々が決められた医療機関以外の医療機関にかかるには保険は使えず全額負担になるなどの制限があることもあります。

また日本はCT,MRIの人口当たりの数は2位に2倍近い差をつけて世界1位ですし、病床数も同様に2位に大差をつけて世界1位です。

そして日本の医療は世界的に比較しても低負担中福祉(もしくは高福祉)です。 つまり他の諸外国と比べると日本の医療は非常に質が高い上に自由に誰もが受けることができ、かつ安価なのです。入院もしやすく入院期間も長いのも特徴です。

何かあったら病院に行けばいい ?

何かあったら病院に行けばいい ?

このような恵まれた環境を当たり前として受け続けてきた結果、日本人は病院への依存度が非常に高くなってしまいました。

  • 「何かあったら病院に行けばいい」

全体的にはこのような感覚があるのではないでしょうか。

もちろん「何かあっても病院に行くことができる」というのは安心ですし、命を守るためには非常に大切なことです。

しかし「何かあったら病院に行けばいい」という感覚によって、「病気にかからないように日頃から気を付けて自分の健康に責任を持つ」という意識を低下させてしまっているのも残念ながら事実でしょう。

しかし病院に行っても治らない病気は数多くあります。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病はその代表例です。

高血圧も糖尿病も血圧や血糖値を一時的に下げる薬を処方することしかできませんから、治るわけではなく毎日飲み続けなくてはなりません。 これらの疾患を改善したり防いだりするには日頃の食習慣や運動習慣の改善が重要であり必要不可欠です。

本来的には素晴らしいことであるはずの「誰もがいつでも安価で医療を受けられる」ということが、そのせいで逆に日頃からの自律への意識を低下させてしまっているとしたら、医療が手軽に手に入る今の医療の在り方から考えなくてはならないと思います。

医療者サイドにも問題 あり

医療者サイドにも問題 あり

またこのような患者サイドの意識の問題だけでなく、医療者サイドにも問題があるように感じます。

医療が身近で手軽になっていることで、患者からすると医療機関を選ぶ選択肢は多くあり、患者が医療機関を選ぶことができます。そのため医療者サイドは集患のために患者のウケをよくするために医療以外のところで競い合っているような状況が強くなっています。

例えば

病院Aは医師が日頃の生活習慣について厳しく指導をしてあまり薬を出さずに生活習慣の改善をすることを伝えて診察を終わったり、風邪の時も薬を出さず良く寝ることを指示して診察を終わるような病院とします。

それに対して病院Bは医師が優しく「大変ですね」などと声をかけてくれて患者の希望通りの薬を出してくれる病院とします。

本来的にはどちらが医療として正しく良い病院かというと、明らかにAです。しかし現在Bのような病院をいい病院やいい医師とする傾向があるように思います。

そもそも風邪に抗生物質などはまるで意味のないことですし、逆に耐性ができてしまうので害です。それにも拘らず日本人は風邪であっても薬を出してくれない医師をヤブと言ったりすることが非常に多いです。

その結果として医療者サイドも患者の要望を第一に考え、無駄な薬を処方したり生活習慣に対しての指導をしないなどの医療として正しいことを実践せずに患者を確保するためのビジネスが優先になってしまっている傾向にあります。 患者に「いい先生」と言われる努力が先行し、本来的な「正しい医師としての姿」からかけ離れてしまっている医師が増えてきているように思います。

医療の本質

 医療の本質

もちろん医療が身近で便利なことは決して悪いことではありません。

しかし医療の本質は「健康を維持すること」にあります。その医療の本質を第一に目指さなくてはならないはずです。

残念ながら医療機関への敷居が低いことによってそのような意識が薄れてしまうのであれば、医療機関は敷居が高く行きづらい場所であった方がよいのかもしれません。 病院が怖いから、病院に行きたくないから健康に気を付けるというのは、本来的には良い方法ではないとは思いますが、臨床現場に携わってきた感想としてはそうせざるを得ないのではないかと感じてしまいます。

各々が日頃の生活習慣や食習慣から自分の健康に気を付け、医療者は患者を集めることではなく予防を含めた本質的な医療を提供することが正しい医療の在り方のはずです。 そうあるために必要なことをしっかり考える必要があると思います。