医療の敷居は低くなるべきか
数十年前と比べると、世の中に存在するクリニックの数は非常に増えました。
ここ最近に関しても、微増傾向にあります。
(但し、有床診療所は減少傾向です。)
患者サイドからしてみれば、選択肢が増えて選ぶのが難しいという問題はあるかもしれませんが、基本的には医療機関に受診しやすい環境になっています。
患者は、いつでも受診したいときに、基本的にどこの病院やクリニックにも受診しに行くことが出来ます。
当たり前のように思えるかもしれませんが、実は「いつでも・どこでも」受診できる日本は、世界的に見て非常に珍しいことです。
また、病院やクリニックを掲載したポータルサイトなども増え、ネットで簡単に予約できるようにもなってきています。
つまり患者から見ると、医療機関を受診する敷居がどんどん低くなっているわけです。
便利になって良い世の中になったと言えばそうかもしれませんが、果たして良いことばかりなのでしょうか。
医療機関の敷居が低くなることは、患者にとって本当にプラスなのでしょうか。 そのあたりについて考えてみます。
医療への敷居
日本の医療は、「奇跡の制度」と呼ばれる国民皆保険制度をとっています。
少子高齢化なども影響し制度の存続が厳しくなっているという議論などもありますが、少なくとも現状において日本人は、この制度のお陰で誰もが安価で医療を受けられます。
しかも、誰もがいつでもどこの医療機関にも受診しに行くことが出来ますから、日本においては医療への敷居は非常に低いと言えます。
そしてそれは、今後もますます低くなっていくことと考えられます。医療への敷居が低いことは、非常に恵まれているとも言えます。
困ったことが自分や家族の体に起こっても、医者にいつでも診てもらえますからね。その結果、患者の健康が守られていると考える人は多いでしょう。
逆に、医療が高額であったり、病院やクリニックが非常に少ないような医療への敷居が高い状態であれば、困った時に医者に診てもらえないかもしれません。
そうなると、患者の健康は維持できないと考えても不思議ではありませんし、その通りの部分があるのも間違いありません。
医療が崩壊すると
医療が人々の健康を守っているとすると、コロナ騒ぎでもよく出てきた「医療崩壊」などが起こってしまえば、人々の健康や命は守られないことになります。
しかし、実際にはそうでもないのです。
北海道の夕張市は、2007年に財政破綻した結果、実際に医療崩壊に追い込まれました。
市内に一つしかなかった病院が閉院になり診療所に縮小され、病床数は10分の1程度に減り、専門医もいなくなりました。
病床数 | |
---|---|
夕張市の財政破綻前 |
171床 |
夕張市の財政破綻後 |
19床 |
※医療法では病床数が20以上を「病院」、19以下を「診療所」としています。そのため、病院がなくなり、診療所になりました。
救急車も、夕張市内に受け入れられる病院が無くなってしまったため、周辺の市から来てもらうしかなくなってしまいました。
ちなみにその時の夕張市は、高齢化率日本一です。結果がどうなったかと言えば、死亡率が急激に悪化してしまうようなことにはなりませんでした。
それどころか
- ・ほとんどの死因について、病死が減る
- ・老衰による死亡が増える
となりました。
医療崩壊をしたら、病気や病死が減ったわけです。
死亡者数(平均) | 死亡率 | |
---|---|---|
夕張市の財政破綻前(H15~H19) |
217.4人 |
男性123.8 |
女性105.2 |
||
夕張市の財政破綻後(H20~H24) |
218.6人 |
男性115.1 |
女性110.9 |
※厚生労働省人口動態・保健社会統計課による人口動態調査、人口動態統計、厚生労働省人口動態特殊報告、人口動態保健所・市区町村別統計によるSMRより
これと似たようなことが、過去のイスラエルやアメリカやドイツなどの医療ストライキでも見られます。ストライキ中は、死亡率が減少したそうです。
これらのことは、医療が機能不全になると、むしろ人々が健康になるという可能性があるということです。
もしそうだとしたら、医療の敷居が低いことは、人々の健康を奪っているということにもなり得るわけです。
医療の役割
医療が機能不全になると、病気や病死が減ることの原因としては
- ・過剰医療
- ・患者の医療依存
の二つが主に考えられます。
今の医療は、過剰医療のオンパレードです。無駄な投薬や無駄な処置に溢れています。
無駄という以上に、不必要な医療行為は害でしかありません。基準値をいじって患者を急増させた高血圧などは、顕著な例です。
そして患者も、そのような医療をありがたがってひたすらに受け続けています。
「何かあったら医者に行けばいい」という意識ですね。
日本人は特に医療依存の傾向が強いですから、大したことない事でも医者に診てもらい、自ら大量の薬を欲する人も少なくありません。
「自分で自分の健康を守る」という意識は、非常に希薄です。
しかし、医療というものの本来の役割は、「健康を維持する」ということです。
何か病気などになった時には治療行為は必要かもしれませんが、そもそも病気などにならないようにするのが第一義です。
生活習慣改善10ヵ条 | |
---|---|
【運動】適度な運動を毎日続けよう |
まずは今より10分多くからだを動かすことから始めましょう。1駅手前で降りて歩くなど、無理しない程度に毎日続けることが大切です。 |
【たばこ】今すぐ禁煙 |
たばこは癌をはじめ、健康にさまざまな悪影響をもたらします。禁煙のメリットを考え、1日も吸わない日を少しでも増やし、吸わない日を少しずつ増やしていってください。 |
【塩分】塩分は控えめに |
塩分は、1日男性7.5g未満、女性6.5g未満の摂取が適量とされています。ただし、すでに血圧が基準値より高めの方は1日6g未満を目標にしてください。 |
【脂質】油っぽい食事は避ける |
現代では、食生活の欧米化等により、脂質をとりすぎる傾向にあります。蒸す・煮るいった調理方法や、肉類は下ゆでや湯通しをするといった工夫を実施してみてください。 |
【魚をメインに】主菜は肉より魚 |
肉だけでなく、魚も立派なタンパク源です。また、魚中心の食事は動脈硬化を予防する効果があります。丸々1匹の調理は大変なので、切り身を利用するなどの工夫をし、毎日の食事に、魚料理を積極的に取り入れてください。 |
【野菜】野菜を1日350g以上 |
現代の日本人、特に若い世代で野菜不足が深刻化しています。野菜不足は便秘、肌荒れ、肩こりやイライラなど体にさまざまな不調をもたらします。カット野菜を利用するなどして野菜をたっぷりとりましょう。 |
【飲酒】お酒は適量を |
お酒の飲みすぎはさまざまな生活習慣病の原因となります。医学的には純アルコール量で1日20~25g程度とされており、ビールですと中瓶1本分が適量とされています。飲みすぎに注意し、週に1日はお酒を飲まない休肝日を設けましょう。 |
【歯】歯の健康は全ての健康 |
歯周病はメタボリックシンドロームと相互に影響し合いながら、互いを悪化させることがわかってきています。また、なんでもよく噛んで食べるためには、健康な歯は欠かせません。毎食後の歯磨きを欠かさずしてください。 |
【ストレス】ストレス解消 |
現代社会はストレス社会ともいわれ、半数以上の人がストレスを抱えています。ウォーキングやジョギングなどといった運動をしたり、休日はしっかりと休むなど、自分に合ったストレス解消法でストレスを抱え込まないようにしましょう。 |
【睡眠】十分な睡眠を |
睡眠不足は生活習慣病の発症リスクを高めます。現代の生活は夜型化しており、日本人の平均睡眠時間は50年前に比べると約1時間も短くなっているといわれています。質の高い眠りを心がけ、規則正しい生活をおくりましょう。 |
※全国健康保険協会より抜粋
人々は生活習慣などに気を付けて、自分の健康を自分自身で守る意識を持つ。それをサポートするために、医者などは知識を啓蒙する。
その上で、どうしても病気などになってしまった場合において、やむなく治療をする。このような流れが、医療の本来の流れです。
しかし、現在の医療は本質からかけ離れています。その原因の一つが、医療の敷居が低くなったことにあります。
敷居が低いため、人々の自分の健康への意識が薄れ、医療に依存する他力本願になってしまっている傾向があります。
また、クリニックなどの患者の奪い合いも激化しています。今後人口減少は進むため、一層激化することが考えられます。
現在の医療は、本質からほど遠いものとなってしまっているわけです。
まとめ
- ・年々、医療への敷居は低くなっている
- ・医療崩壊が起こると、病気や病死が減る
- ・医療への敷居が低いことは、患者の健康に対して悪影響とも言える
医療への敷居が低いことは、確かに良い面もあります。
しかし、そもそも病気などにならなければ医療機関へ受診しに行く必要などありません。
医療へのアクセスがしにくいことは、ある種自分で自分の健康を守る意識付けにもなります。
そのような意味では、医療への敷居は高くても良いと思います。クリニックの数が激減すれば人々の健康レベルは上がるのかもしれません。