国民皆保険制度・医療体制の現状・問題点
国民皆保険制度のモデルは地震保険や自動車保険などと同様に、少ない負担を多くの
加入者が支払い、少しの人のまさかの時に備えるという「相互扶助」という考え方から
来ています。
日本の国民皆保険制度が定着したのは1961年で高度経済成長期の真っただ中です。
この時代はいわゆるピラミッド型の人口分布で人口がどんどん増えていき若い世代が多く高齢者が少ない人口分布でした。
まさに相互扶助が適していた時代で、多くの若年層が収入に対して少ない保険料を支払うことで、医療費の多くかかる少数の高齢者の医療費をまかなうことができました。
しかし高度経済成長期が終わりバブルも崩壊した現代、この奇跡の制度は揺らいでいます。
この制度が成り立つためには基本的には
支払った保険料の総和+窓口負担の総和 > 医療費の総和
でなくてはなりません。
しかし現代、労働世代の減少により保険料の総和が減り、高齢化社会により医療費の総和が増えたことで
支払った保険料の総和+窓口負担の総和 < 医療費の総和
となってしまっています。
この赤字は年々大きくなってしまっています。
1990年には20兆円だった医療費は2015年には41.5兆円となり2025年には54兆円になると試算されています。 現在の40兆円を超える医療費のうち保険料で賄えているのは49%、窓口負担は12%となっています。残りの39%は赤字となっており税金で負担している状態です。
この赤字の状態を改善するために、保険料の増額・窓口負担割合の引き上げ・消費税増税などでの財源の確保などが段階的に行われてきました。
そもそもこの赤字の状態を改善する必要があるかは別として、これまで赤字の状態を改善出来てはいませんし、今後も改善される見通しは立っていません。
医療費が膨らんでしまっていることの原因として考えられるのは
・高齢者が増えている超高齢化社会であること
・医療技術の進歩による最先端医療にはたくさんのお金がかかること
・医療技術の進歩などによって寿命が延びたこと
があげられます。
しかしながら、これらのことは変えることはできないものばかりです。
医療はこれからも進歩していきます。進歩してきたからこそ人類の歴史が存在するのです。
医療技術の進歩は歓迎すべきことで否定するべきことではありません。
次に超高齢化社会。これも変えようのない変化です。
超高齢化社会は先進国などが最終的に迎える安定した人口分布です。
つまりは世界中での最終的な形態ということです。
そして寿命が延びたこと。これも今後さらに延びていくと考えられています。 「長生きリスク」という言葉がありますが、本来的には長生きできるようになったことは喜ぶべきことだと思います。
このように医療費の増加は当然の結果でもあります。
しかし、医療費は節減できる可能性も十分にあります。
実際には医療費が多くかかる高齢者の数が増えているから医療費が増加しているだけでなく、一人当たりの医療費も増加し続けています。
これは寿命が延びたからということもありますが、生活習慣病などの慢性疾患の増加も非常に大きく関係しています。
高血圧、糖尿病、高脂血症、癌、肥満、歯周病などは治らず、病院での治療を受け続けたり、薬を飲み続けたりすることになります。
つまりこれらの疾患は医療費を使い続けることになる可能性が高いわけです。
しかしこれらの疾患は生活習慣の改善により、予防も可能なことが多いですし、改善も期待できます。
生活習慣の改善の徹底により、「健康を維持する」「病気にならない」などが可能になります。
結果として医療費の節減にも繋がるはずです。
しかし現在の保険制度では基本的に病名が付かないと診察しても報酬が発生しません。
最も必要な予防は基本的に診療行為として認められておらず、病気になったときしか診療行為を認められていないということなのです。
つまり、日頃からセルフケアを行い、健康を維持するために努力している人は保険制度の恩恵を受けることができず、日頃のケアを怠り病気になる人は医療費を使い続け恩恵を受ける制度になってしまっているのです。
生活習慣病は特にこれが顕著です。
この辺りは国民皆保険制度の問題点です。
恵まれた日本の国民皆保険制度によって、何かあっても病院に行けばいいという意識が蔓延し、生活習慣病などの慢性疾患を増加させてしまっている側面もあるのかもしれません。
後述する夕張市の例を見ても、恵まれすぎた医療制度は、逆に人々の健康を奪うのかもしれないと思わずにはいられません。
このように考えると、国民皆保険制度・医療体制の問題点としては
・恵まれた制度がゆえに人々の健康意識を奪ってしまっている問題
・医療費問題
この2点が考えられると思います。
現在、国としても生活習慣病のような慢性疾患については負担割合を上げようとする動きもあります。
ある程度仕方のない事なのかもしれません。
恵まれた制度だから病気が増えるのであれば、制度を不便にすることで病気を減らすという考え方をしなくてはならないことは非常に残念ではありますが、人々の意識を変えるためにはある程度必要なのかもしれません。
本来的にはこのようなムチで行動を変えるようなやり方は好ましくはないとは思いますが・・・
そして医療費問題です。
ここまで医療費の増加・節減について述べましたが、実は医療費は基本的に節減する必要はありません。日本において財政問題は存在しません。
これはマクロ経済のことをわかっている人であれば明白なことです。
ここでは詳しくは書きませんが、医療費がいくら赤字になっても日本が財政破綻もすることもありません。
つまり本来的には医療費問題を考える必要はなく、人々の健康を考えるだけでいいのです。
問題としては政府がそのような正しい判断をしない可能性が高いということです・・・・
(経済のことについては「0から学ぶ経済」を参考にしてください。)
現在、医療費の問題は非常に大きな問題として扱われていますが、実際にはそんな問題は存在しないわけです。
医療費の問題など気にすることなく、日本の誇る「奇跡の制度」である国民皆保険制度をしっかり守っていかなくてはなりません。
しかしその「奇跡の制度」によって、自分の健康の大切さを見失い豊かな人生を送れないのは大きな問題です。
国民皆保険制度を維持しつつ、自分で自分の健康を守る意識を持たせられるような制度の修正は必要ではないかと思います。