1.歯周病とは
歯周病とは、歯を支えている歯槽骨や歯肉などの歯周組織が歯垢の中に含まれている歯周病菌に感染し、歯槽骨や歯肉が破壊されてしまう病気です。
いわゆる「歯槽膿漏(シソウノウロウ)」の事です。
虫歯と並び、口腔内の二大疾患の一つであり、人類史上最も感染者数の多い感染症とされています。
歯周病は自覚症状が非常にわかりにくいため、症状を感じたときにはかなり重度の歯周病に進行してしまっていることが多くみられます。
歯周病は大きく分けると歯肉炎と歯周炎に分けられ、「歯肉炎⇒歯周炎」というように進行していきます。
歯肉炎
歯周病の初期段階の状態で、歯肉に炎症が限局している状態です。
歯周炎
歯肉だけでなく、歯槽骨などの歯周組織まで炎症が波及し、歯槽骨などが破壊されてしまった状態です。
歯周炎が進行すると最終的には歯が抜けてしまいます。
歯周炎が重度まで進行してしまうと治癒が非常に困難で、治すことができないことも多々あります。
歯を支えているのは歯肉ではなく、歯肉の内側にある歯槽骨です。 歯槽骨が歯根を支えていることで歯は咬むなどの機能を果たすことができます。 歯周炎はこの歯槽骨を破壊してしまうので、重度に進行すると歯がグラグラしてきてしまい、最悪歯を失う結果となる場合があります。
2.歯周病の原因
直接的な原因
歯周病の直接的な原因は歯垢(プラーク)です。
歯垢とは、磨き残した食べ物のかすなどに細菌が繁殖してしまったものです。
この歯垢に繁殖した多種類の細菌の集合体(バイオフィルム)が、毒素を出して歯肉などの歯周組織を侵襲することで、歯周病になります。
また、歯石も歯周病に大きくかかわっています。
歯石とは、歯垢に唾液中のカルシウムなどが沈着し、石灰化することで石のように硬くなってしまったものです。
歯肉縁より上にできる歯石を歯肉縁上歯石、下にできる歯石を歯肉縁下歯石といいます。(歯肉縁とは歯と歯肉の境目の事です。)
歯垢と異なり、歯石自体には病原性はないとされていますが、歯石の表面は非常に粗雑なため、歯垢や食べかすが更に付着しやすくなり歯周病の原因になってしまいます。
歯垢が歯と歯肉の境目である歯肉溝にたまることから始まります。
歯垢に含まれる細菌は毒素をだし、歯肉を侵襲します。
歯垢がしっかり除去されずに残っていると、石灰化し歯石になります。
歯石の表面は粗造な為、食べかすが付着しやすくなり、細菌の繁殖が進行してしまいます。
このような悪循環が起こり、歯周病の原因になってしまいます。
この悪循環を断ち切るためには、歯垢・歯石をしっかり取りきることが大切です。
歯垢の段階であれば、歯ブラシで取ることはできますが、 歯石になってしまうと歯ブラシでは取るとこはできませんので、歯科医院での専門的なクリーニングが必要です。
間接的な原因
歯周病の直接的な原因は歯垢ですが、他にも以下のようなものが歯周病になるリスクを高めてしまいます。
歯並び
歯並びが悪い所は、歯ブラシを当てにくいため、歯垢が付きやすい状況になり、歯周病・虫歯共にリスクが高くなってしまいます。
不適合な詰め物
CR・インレー・クラウンなどの詰め物の適合状態が悪いと、段差や隙間が存在してしまい、歯垢が付きやすくなり、歯周病・虫歯共にリスクが高くなります。
咬み合わせ
咬み合わせが悪く、歯に許容範囲以上の力がかかってしまうと歯周病の悪化につながります。
また、咬み合わせが悪くなくても、ブリッジや入れ歯を支えている歯も、本来より強い力を受け止めなくてはならず、歯周病が悪化しやすくなります。
不良習癖
歯ぎしり
歯ぎしりは、非常に大きな負荷が歯にかかるため、歯周組織に負担がかかり、 歯周病を進行させやすくなります。
口呼吸
鼻でなく口で呼吸する癖があると、口の中が乾燥して歯垢が付きやすくなり歯周病は悪化しやすくなります。
喫煙
歯肉の血管が収縮し血行が悪くなるため、抵抗力が低下し、歯周病のリスクが高くなります。
糖尿病
糖尿病になると身体の抵抗力が低下し、歯周病のリスクが高くなります。
また、適切な歯周病が血糖値の改善に関連があることもわかってきました。
ストレス
精神的ストレスにより、身体の抵抗力が低下してしまい、歯周病のリスクが高くなります。
食習慣
不規則な食事や栄養の偏り、軟らかいものや甘いものの偏食により、歯周病のリスクが高くなります。
妊娠
ホルモンバランスが変化することによって、歯周病のリスクが高くなります。
3.歯周病の進行
健康な歯肉
歯と歯肉の境目には、健康な歯肉でも1~2mm程の溝があります。これを歯肉溝といいます。
食べかすの磨き残しがあると、そこに細菌が付着し、歯垢(プラーク)を形成します。
歯垢の磨き残しがあると、歯垢中の細菌の繁殖が進みます。
歯肉炎
歯垢が除去されずにいると、歯垢が石灰化して硬くなり歯石になってしまいます。歯垢と歯石により、歯肉に炎症が生じます。
歯肉は赤く腫れ、出血しやすくなります。
歯周炎
歯肉炎が続くと、細菌の出す毒素によって、歯と歯肉の接合部が破壊され、歯肉溝が深くなります。
この深くなった歯肉溝を歯周ポケットといいます。歯周ポケット内に強い毒素を持つ細菌の集合体(バイオフィルム)が繁殖してしまいます。
歯を支えている骨である歯槽骨をはじめとする歯周組織が破壊されていきます。
進行してしまうと、歯がグラグラしてきたり、咬みにくくなったり、膿が出たりします。
口臭の原因にもなります。
歯周病は歳を取ると自然になってしまうので、歳をとったら歯周病になるのは仕方がない、と思っている方が多くいらっしゃいます。
しかし、実際には歯周病は年齢に依存する病気では、決してありません。
歯垢や歯石が付着していない衛生的な状態を保つことができれば、年齢に関わらず、歯周病を予防することができます。
歯周病で破壊され失ってしまった歯槽骨は基本的に回復することはありませんので、日頃の適切な歯磨きや、定期的な歯石取りを継続していくことで歯周病にならないように、また進行しないようにすることが最も大切です。
4.歯周病の治療
歯周病の治療は基本的に、口腔内を歯垢や歯石のない衛生的な状態に保つ事が第一です。
つまり、歯科医院に定期的に通って歯石取りやクリーニングをしても、毎日の歯磨きをおろそかにしてしまっては、歯周病の改善や予防はできません。
歯周病の治療・予防に最も重要なのは日頃からの歯磨きで、歯磨きでは除去できない歯石は歯科医院で除去しましょう
セルフケア(歯磨き)
歯周病の予防・改善の第一歩は、歯磨きでのプラークコントロールです。
プラークコントロールとは歯垢(プラーク)を除去して減少させることです。
食べたら磨くという習慣をつけましょう。
歯磨きの基本としては以下の事が大切です。
- ・時間をかけて磨く。( 目安として夜は10 分以上磨きましょう。 )
- ・歯ブラシの圧は力を入れすぎずに磨く。
- ・歯ブラシを動かすストロークは、細かく磨く。
また、歯周病の原因となりやすい歯垢のたまりやすく磨きにくい部位としては
- ・歯と歯肉の境目(歯肉溝、歯周ポケット)
- ・歯と歯の間
があります。
歯と歯肉の境目
歯と歯肉の境目の所は、歯ブラシを歯に対して45°に向けて細かく磨きます。
毛先を歯周ポケットの中に入れていくように磨きます。
歯と歯の間
歯と歯の間には、フロス(糸ようじ)や、歯間ブラシを使うと効果的です。
歯科医院での歯周病治療
状態のチェック、検査を行い、自分の歯周病の状態・程度を理解・把握する。
ポケットの深さを測定するポケット検査やレントゲンによる検査を行います。
歯周病は症状の出にくい病気のため、検査をして自分の正確な状態を知りましょう。
正しい歯磨きの方法を教えてもらう。
歯磨きの正しい方法は、歯並びなどにも関わりますので人それぞれです。
歯科医や歯科衛生士に自分に合った正しい歯磨きの方法を教わりましょう。
歯科医師や衛生士による専門的なクリーニング
歯垢が石灰化して硬くなってしまった歯石は歯磨きでは取り除くことはできず、歯科医師や衛生士による専門的なクリーニングによって取らなくてはなりません。
この歯垢や歯石を取り除くことをスケーリングといいます。
また、スケーリングの後に、歯根表面の汚染された歯質を除去し、表面を滑沢にすることで歯垢や歯石が再び付着しにくくすることをルートプレーニングといいます。
これらを合わせてスケーリング・ルートプレーニング(SRP)といいます。
スケーリング
スケーリングには歯肉縁上スケーリングと歯肉縁下スケーリングとに分けられます。
歯肉縁上スケーリング
通常、縁上スケーリングといい、歯肉縁より上の歯石や歯垢を取り除くスケーリングです。
歯肉縁下スケーリング
通常、縁下スケーリングといい、歯肉縁より下の歯周ポケット内の歯石や歯垢を取り除くスケーリングです。
歯肉縁上の歯石は、白色または黄白色で、術者が直接見ることができるため、比較的簡単に除去可能です。
歯肉縁下の歯石は、黒褐色で非常に硬く歯根に付着しています。
歯肉の中に潜り込んでいるため、直接見ることができないので、除去するのが困難であり、専門的技術が必要です。
スケーリングは以下のような器具を用いて行います。
超音波スケーラー
超音波と言われる振動によって、水を出しながら歯垢や歯石を取り除きます。
縁上スケーリングはこの超音波スケーラーで行うことがほとんどです。縁下スケーリングにも用いることもあります。
手用スケーラー
ハンドスケーラーとも言います。超音波スケーラーで取り除ききれない縁下歯石などをかき取ります。先端は刃物になっていますので、痛みを伴うこともよくあり、麻酔をしてから行うこともあります。
スケーリング例
下の前歯の舌側の写真です。
歯と歯と歯肉の間に歯石がべっとり付着しています。
縁上スケーリングを終えたところです。
左の写真と比べると歯と歯の間の隙間があるのがわかります。
この隙間に付着していたものは、全て歯石です。
ルートプレーニング
ルートプレーニングは主に、手用スケーラーで行います。
縁下スケーリング同様、歯周ポケットの深いところまで手用スケーラーを挿入するため、通常麻酔を使って行います。
歯周外科、再SRP
SRP まで行っても状態が良くない場合や、さらなる改善を目指す場合は、再検査から再SRP や、外科的な処置を行うこともあります。
歯周外科にはフラップ手術、GTR 法、エムドゲイン法などがあります。
定期検診によるメンテナンス
歯周病は生活習慣病の一つで、一度歯垢や歯石を取り除いたことで完治するものではありません。
歯垢や歯石の付着していない状態を継続し、歯周病が進行しないように維持することが大切です。 そのために毎日の歯磨きをしっかり行うことが最重要ですが、自分では磨けているかの判断は非常に困難なので定期検診で歯磨きをチェックしてもらいましょう。
定期検診の間隔は、その人の口腔内の状況により異なりますが、通常3~6 ヶ月毎の場合が多いです。
歯周病は重度になると特に、治療が非常に難し病気なので、予防が最も大切です。